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失われ行く氾濫原


九十九里の海跡湖および湿地を巡って来ました。画像は現在は消滅した鳥喰(とりはみ)沼の今昔図です。現在の地図の上の方ににチラッと見えるのは坂田池。


各所巡って出た結論、戦後の日本は頑張って田んぼ作りすぎ!農地開放はもちろん良い面も多かったけど肝心のブレーキがなかった。担い手が極端に減る10年後ぐらいを想像するだけで怖い。かといって効率だけで農業やり出したら環境も人の心も一気に全部壊れてしまう。


乾草(ひぐさ)沼あたり、アップと引きの図。現在の沼は往時のほんの一部が残った状態であることがわかります。近年まで養魚場として利用されていました。帯状に点在していた他の沼地は同じく干拓されて田んぼになり、ほぼ消滅しています。

 

かつて、牧野富太郎が「まさに植物の宝庫である」と指摘した八積湿原だったところ。原野=何もない景色と捉えるか、何もかもがある景色と捉えるかは人それぞれだったでしょうか。過去日記の消えた湿原を参照してもらえると嬉しいです。

 

ちなみに、これら明治時代と現代の地図はクリックで拡大します。地図は下記のサイトの比較地図から引用しています。

歴史的農業環境閲覧システム

https://habs.rad.naro.go.jp


最初に訪れた多古光湿原。多古町と横芝光町に跨り、千葉県の古き良き環境を最後に残した場所ではないかと思います。ブログタグで多古光湿原で過去日記を参照いただければ。写真は咲き残っていたコオニユリ。かつてはあちこちでみられた植物の一つです。種で増えることができますが、発芽から開花まで10年以上を要します。

多古光湿原ブログ
http://takohikari-marsh.sblo.jp


足元にはコバギボウシやイヌゴマ、咲残りのヌマトラノオなどの花が多くみられ、希少種とされるムカゴニンジンの花も見られました。


湿原周りも散歩。田んぼにはフタバムグラの小さな花。写真にはキカシグサやミズワラビがたくさん写っています。河川敷ではガガイモの花が咲き始めていました。


また、多古光湿原は歴史的な視点から見てもとても面白いところなので是非訪れてみてください↓


次に訪れたのは横芝光町にあるふれあい坂田池公園。海跡湖の名残である坂田池ですが、四方をコンクリートで囲まれ、なんの変化も起こらず、もはや池ではないですね。


公園内に設けられた小さな湿性植物園を散策。多古光湿原でも多くみられたミソハギやヒメシロネが目立ちます。


付近から移植した植物の育成保護という側面もあるようですが、やはり維持するのは難しい模様。以前は観察できた多くの沈水生および浮葉生の水草を今は観察できず。アメリカザリガニが侵入し、食べ尽くされてしまったそうな。囲ってある場所でも環境的に合わないのか、特筆するものはみられませんでした。


囲いのある一地点で、イトモかツツイトモと思われる沈水生の水草が見られました。


こちらは釣り人も多い乾草沼。以前よりもかなり環境が悪化しているような・・。千葉県でオオセスジイトトンボというトンボが生息する最後の地となっていますが。ここ数年観察されず、絶滅の可能性があるそうです。


山武市と東金市にまたがる成東・東金湿原。日本で初めて国の天然記念物指定地となった場所の一つです。


乾燥化が進み、湿地から草原へ。これは自然の遷移。オミナエシやツリガネニンジンの花が点々と見られて秋の風情です。


屈んで見える小さな世界。ヒメナエとヒナノカンザシの花。


今見られる食虫植物代表、ホザキノミミカキグサの花。他にもナガバノイシモチソウやミミカキグサ、コモウセンゴケなどの花も含めて食虫植物が点々と見られました。この湿地ではムラサキミミカキグサも生えるようですが、近年はなかなか観察できないそうです。

 

↓は千葉県某所で昨年見られたムラサキミミカキグサ。より水に浸かる環境を好むと思われます。

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南下して長生村にある尼ヶ台総合公園へ。冒頭に書いた八積湿原からブロック状に切った表土ごと移植してきた湿性植物園があります。大切なことが書いてある案内板はクリックで拡大します。


立ち入れると楽しいのだけど・・立ち入り禁止。ガツガツ入って観察することこそ大事だと個人的には思う。そういった学習の場が新たに生まれると良いですね。


園路から観察できた希少種のミカワシンジュガヤ。地味ですが八積湿原が千葉県最後の自生地だったようなので保存しておくのは大切なことのかも。

以前に書いた本郷草と姫耳掻き草という日記にて登場しています。三河の名のつく通り、東海地方を代表する植物の一つ。環境省から絶滅危惧II類(VU)の指定を受けてもいます。


なぜか良環境でしか見られないアメリカからの帰化植物であるキバナノマツバニンジン。近所の失われてしまった草原でも少数が見られました。ちなみに在来種のマツバニンジンは国から絶滅危惧IA類に指定される植物で、もはや幻の存在。


最後に、八積湿原および西側の大芝あたりをあらためて歩いてみました。新しい住宅がどんどん建ち並ぶ中で僅かに湿地と小さな池が残っていました。住宅地をオニヤンマが飛び回るのも妙な光景ですね。かつてこの地で発見され、学名に上総の意であるkazusanaを冠するイッスンテンツキは50年以上再発見されていません。何か大きな撹乱が起きた時、眠りについている種から目覚めることでしょう。

改めて、八積湿原wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/茂原・八積湿原


現在の外房線が走るすぐ北側、一地点だけ往時の地図にも残る小さな沼地が残っていました。どこかの山間に迷い込んだかのような景色。


帰宅後、嫁ちゃんを迎えの待つ間に国分寺中央公園。先生はザリガニ釣りに勤しむ。なんとか共存はできないものかなぁ。下の写真は小さなアジアイトトンボ。


林床ではシラヤマギクの花が咲いていました。8月に咲くのは早い。


というわけで、The 沼、な一日が終わりました。考えることも多くて色々と疲れた。