坂月川 雑木林 雑木の庭

 

 

かつて、人々の暮らしと自然は混じりあっていました。

・・・・・遠浅の海岸では漁に出る打瀬船が見え、広大な干潟では坂東アオサが打ちあがり、傍らで貝を採る人の姿があります。

海から続く里には家々が並び、少し歩けば丸みを帯びた自然の地形に倣ったかたちの田んぼや畑、茅刈り場が広がり、曲がりくねった小道まわりは暦ごとに草刈りがなされ、日をいっぱいに浴びる道沿いの土手の下には小川が流れています。
里から続く森の中では薪を調達するため木を伐り、焚き付け用の小枝や肥料用の落ち葉を集める人がたくさんいます。ある人は狩った獲物を背負い、路傍の石仏に花を手向けています。山中のあちこちに作られた炭焼きの窯から煙が上がっています。・・・・・


これらは私の地元である千葉県市原市で昭和20年頃に見られた景色です。
このような景色のもとでは、人間も含めて沢山の生き物が共生する絶妙なバランスが保たれていました。

しかし、時代は変遷し人間の生活が効率や経済を優先していくのと引き換えに、何百年も続いてきた環境は失われ、同時に多くの生き物の姿も消えていきました。

生物の多様性を保つことは人間が生きて行くために必要なことです。他の生物が生きていけない状態が広がることは人間が生きていくうえでも好ましくない状態であるからです。
私は人の姿のある山野の美しい風景が好きです。なぜ美しいと感じるのか、なぜ好きなのか、それは生物の多様性に答えが有るのではないかと思っています。

里山景観の保全に代表される環境保護が叫ばれて久しい昨今、保全や保護という言葉はどこかしっくりきません。かつての人々のようにごく自然に山野と共に生きていくにはどうしたら良いのでしょうか。次の世代、更にその次の世代にまで繋いでいくにはどうしたら良いのでしょうか。

私はそのきっかけとなる庭を作っていきたいと考えています。
それぞれの土地に根差した木々や草花を植え、時には利用して、あるいは利用され、移ろう四季を通して寄り添う庭は生活を彩り豊かなものにしてくれます。
そんな庭を持つ家々が一軒また一軒と連なり、やがて街へと広がり、人と人・人と他の多くの生き物をつなぐ大きなうねりとなる、そんなことを夢見ています。


風土を育む一歩として、皆様の庭に携わらせて頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。


武田 眞幸